NPO法人 日本野鳥の会鳥取県支部
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・この冬も、また東郷池でクリスマス花火! (2017/1/14)
  
−今回も、コハクチョウ約50羽が花火の音に驚いて一斉に避難!−

 12/23と12/24の両日、東郷池でクリスマス花火と称するイベントが実施されました。打上げ地点から約3km離れた天神川をネグラとするコハクチョウに与える影響が大きいとして、当支部は過去三年連続で同イベントの主催者である「はわい温泉・東郷温泉旅館組合」に対して中止を要望してきました。残念ながら、今回も聞き入れていただけませんでした。

 12/23当日の観察結果を以下に示します。今年のネグラの場所は、天神橋と北野神社の中間付近です。右岸側の北溟中近くの堤防上の桜並木周辺に車を停めることができて、観察にはこのあたりが好適です。

左の写真は、当日の17:00頃の天神川のネグラの様子。すでにコハクチョウ11羽がネグラに入っていました。このあとに観察した人の話では、最終的に約50羽がネグラ入りしたとのことです。
 



 さて、20:00頃から会員二名で観察開始。
 20:15に花火が上がり始める。この夜は強い西風が吹いていたせいか、花火の音は去年より小さい感じであった。
 20:24、急にコハクチョウの鳴き声と水面を叩く音が聞こえ、多数が南へ、一部が北へ飛び去った。約50羽すべてが逃げ出したものと推定。その直後に風が弱くなったので、花火の音が急に「ドーン、ドーン」と大きく聞こえだした。人間には弱いと感じる音でも、連続して成り続けることでコハクチョウは脅威と感じることが判明。20:30に花火終了。

 はるか北極海の沿岸から、片道だけで約4000kmも飛んで毎年当地を訪れてくれる珍客に対して、地元がこのような対応を取り続けてよいものでしょうか。天神川のコハクチョウの数は、以前は毎年100羽前後は来ていたそうです。最近、飛来数が減少しているのは花火の影響も考えられます。

 こんなことでは、幸福をもたらす鳥として日本人が古来から大切にしてきた白鳥が、今後は鳥取県中部から居なくなってしまうかも知れません。この花火イベントはこの冬が最後となるように、関係者の皆様には改めて再考をお願いいたします。

(by 管理人)




・天神川のコハクチョウからのお願い、
  「東郷池で、冬に花火は打ち上げないで下さい!」
(2016/11/24)


(1)コハクチョウからのお願い


 鳥取県中部の天神川に、今年もシベリアからはるばるとコハクチョウたちがやって来ました (先日の11/13に当支部会員が7羽を初認)。
 彼らの子育ての地は、北極海に面したシベリア最北のツンドラ地帯。そこから自分たちの翼の力だけで、4000kmもの距離を越えて毎年この天神川にやって来ているのです。よほど、この天神川の環境が気に入っているのでしょう。
 そんな彼らですが、何だか困っていることがあるそうです。ちょっと、その悩みを聞いてみましょう。
 
 
「私たちは、この天神川の環境が大好きです。川幅が広くて、ネグラになる中州もあって、天敵のキツネを心配しなくても良い。周りには冬の餌場になる田んぼもあります。何よりも、この地域の人たちは私たちにとても優しい。私たちにイタズラをするような人には、今までに会ったことがありません。

 でも、たった一つだけ困っていることがあります。それは、毎年の12月の夜に、少し離れた東郷池で連続して大きな爆音が立て続けに鳴ること。まるで、私たちに向けて猟銃が連続して撃たれているみたいで、こわくてたまりません。

 去年の12月の夜にも、あの爆音が連続して鳴り始めて、とうとう我慢できなくなって、みんなで天神川の上流の方にしばらく引っ越していました。こわごわと元のネグラに帰って来たのは、一週間以上経ってからでした。

 お願いです!冬に天神川の近くで花火を打上げるのは、もう止めてください・・・。」



(2)昨年の花火の際のコハクチョウの反応

当支部では、この花火イベントの主催者である「はわい温泉・東郷温泉旅館組合」に対して、コハクチョウが越冬中の間は花火イベントを中止していただくように、三年前から毎年お願いして来ました。

 しかし、残念ながら、このイベントは昨年も実施され、12/19の夜の八時過ぎには例年のように花火が打ち上げられました。その際、当支部の会員6名が天神川のコハクチョウのネグラの近くで花火の影響を観察しました。その時のコハクチョウが飛び立つときの羽音と我々の会話を録音したファイルを以下に添付します。さらに、その後の観察結果も含めた経過を示します。

 結局、ほとんどのコハクチョウたちが元のネグラに帰って来たのが確認されたのは、花火から9日も経った後でした。このクリスマス花火の音がコハクチョウたちをおびえさせ、その天神川での安住の地を奪っていることは明らかです。

 12/19
  17:15  天神川のねぐら付近でコハクチョウ23羽を確認
  20:15頃 花火打上げ開始、ドン、という音が響きわたる
           録音1 (9秒間、ファイル:MP3)
  20:18頃 ヒドリガモ等のカモ類が、鳴き交わして避難を始める
  20:19頃 コハクチョウ数羽が「コウ、コウ」と鳴き交わしながら飛び立ち、上流側?へ避難
           録音2(35秒間、ファイル:MP3)
  20:22頃 コハクチョウ20羽程度が鳴き交わしながらいっせいに飛び立ち、上流方向へ避難
           録音3(1分40秒間、ファイル:MP3)
  21h頃までその場に待機するも、コハクチョウはネグラには帰らず

 12/20
  7h過ぎ  ねぐら付近に3羽、倉吉市と三朝町の境界付近の天神川の堤に2羽
  日中   湯梨浜町田後に5羽
  夜    この日の夜も東郷池で花火を打ち上げた。会員三名が観察したが、この夜は最初から
       コハクチョウはネグラにいなかった。

 12/23
  7h過ぎ  倉吉市と三朝町の境界付近の天神川の堤に21羽

 12/28
  7:45   ねぐら付近に28羽(うち幼鳥3羽)


(3)当支部の東郷池クリスマス花火に対する取り組みの経緯

 当支部のこれまでの取り組みを以下に示します。

 2013/12/21,12/22 東郷池で花火打上げ。当支部会員が、両日にわたって天神川のコハクチョウ
           の様子を観察。両日とも、コハクチョウは花火に驚いて飛び去った。
 
 2014/12/13 県中部の当支部会員が「はわい温泉・東郷温泉旅館組合」に対して、口頭で中止の
        要望を申し入れ。
    12/20,12/21 同組合は花火打上げを実施。
    12/23 東郷池南岸の燕趙園でも花火を打ち上げ。この時に天神川で観察した会員によると、
        花火を打ち上げ始めて10分後に、コハクチョウの一部が鳴き交わしながら川下へ
        移動したとのこと。

 2015/4/22 はわい温泉・東郷温泉旅館組合」と燕趙園を運営する県観光事業団宛てに、
        当支部支部長名で「クリスマス花火鑑賞会の中止要望書」を提出。
        燕趙園は中止を決定したが、旅館組合は、この年も花火打上げを続行。
    12/13  旅館組合宛てに支部長名で再度要望書を提出。
    12/19,12/20 花火打上げ。この時のコハクチョウの反応については、上に述べた通り。

 なお、12/19付けの毎日新聞、及び日本海新聞の記事によると、旅館組合は当支部の要望に対して、「天神川とは離れており、時間も花火の大きさなども配慮している。中止は考えていない。」(日本海)、「規模も小さく、打ち上げる場所も考慮している。野鳥保護に全く配慮していないわけではない。」(毎日)との見解を述べている。

 2016/4/22  旅館組合宛てに支部長名で要望書を提出。
 2016/11現在 旅館組合は、今年も12/23,12/24に花火打上げを計画中!!



 ← 今年の花火計画(クリックで拡大します)

 主催団体:「はわい温泉・東郷温泉旅館組合」
  tel:0858−35−4052
  ホームページ:http://hawai-togo.jp



 上に述べたように、当支部では同旅館組合に対し、過去三年に渡って再三の花火中止申し入れを行なってきましたが、同旅館組合からの回答も、当支部への直接の見解表明も、今までに何ひとつありませんでした。
 
 同旅館組合の唯一の見解表明と言えるのは、上に挙げた2015/12/19付けの二件の新聞記事の中のコメントでしょうか?「花火の打ち上げ方法には配慮している」との事ですが、コハクチョウ達は旅館組合の花火に驚いて、毎年、天神川のネグラから避難し続けているのが現実です。

 参考までに、下に花火の打ち上げ場所とネグラの位置関係を示します。2014年に一回だけあった燕趙園の花火の際には、打上げ地点が4.6km離れていても、コハクチョウはいったんは飛び去る動きを見せていました。旅館組合の打ち上げ場所は、ネグラから3.0kmしか離れていません。花火がコハクチョウに強い影響を与えていることは明白です。

 


(4)古来から、日本人は白鳥が人に幸福をもたらすとの信仰を持ってきました

 日本では、白い動物を見かけることは一般に吉兆とされています。織田信長が桶狭間に出陣する途中で熱田神宮に参拝した際に、境内から白鷺が飛び立つのを見て、「これぞ、熱田の大神が我々を護り、勝利に導くしるしである!」と兵達を激励したとの話が現代にまで伝わっています。

 今日でも白いヘビや白いスズメに出会うのは縁起がよい事と言われており、ネット上でも、しばしばその種の話題を目にすることが多いものです。しかし、縁起の良い白い動物としては、白鳥に勝るものはありません。日本の神話・伝説の世界では、白鳥は神からの使いとしての確固たる地位を得ているのです。以下、その例をいくつか紹介しましょう。

 @ 伏見稲荷大社(京都市)の創建縁起

 全国に約三万社あると言われる稲荷神社の総本山。最近は、この神社の参詣路にある千本鳥居が特に外国人観光客の人気を呼び、連日たいへんなにぎわいだそうです。この神社の創建時の言い伝えに白鳥が登場しています。
 「当時、山城盆地に勢力を拡大していた秦氏の先祖が、ある日、戯れに餅を的にして矢を射た。すると餅が白鳥に変身して飛び立ち、この山に舞い降りると、そこに稲が成った。これにより、この地に神社を創建し、「稲成り」転じて稲荷神社と名付けた。・・・」。ここでは、白鳥は、この地に豊作と繁栄をもたらす象徴とみなされています。

 A 垂仁天皇の第一皇子、ホムツワケのミコトに関する伝説

 「古事記」及び「日本書紀」には、ホムツワケのミコトは生まれてから成人となるまで一言も言葉を発しなかったが、ある日、白鳥が空を飛ぶのを見たことがきっかけで言葉を話すようになったとあります。この話の展開は両書でかなり異なるのですが、いずれにしても、皇子の生得の障害を治癒する存在として白鳥が登場していることに違いはありません。
 なお、この慶事の結果として、大和朝廷の信仰の対象としての白鳥を捕獲・飼育し愛玩する部門としての「鳥取部」や「鳥飼部」等が創設されました。鳥取の地名は、この鳥取部が現在の鳥取市の中心部(古代にはアシ原が生い茂る低湿地であり、白鳥が多く飛来していたものと推定される)に置かれていたことに由来しているものと考えられます。

 B 古代の英雄、ヤマトタケルの死後に関する伝説

 古代の英雄であるヤマトタケルのミコトは、先に述べた垂仁天皇の第三皇子である景行天皇の皇子とされています。この人物の死の前後の描写については、「古事記」及び「日本書紀」の記載内容に大きな相違はありません。
 東国を征服した後、大和に帰る途中で現在の滋賀・岐阜県境にある伊吹山に登り、そこで氷雨に打たれて衰弱したヤマトタケルは、遂にはこの山のふもとで病死してしまいました。死後にその体は白鳥に変身、その姿のままで畿内各地を巡ったのちに天に昇ったとされています。ここでは、白鳥は稀代の英雄が死後に変身した姿として、最終的には彼の先祖である神々が居ます天上に帰る存在として描かれています。

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 上に述べた伝説の中で白鳥は、地域に豊穣と繁栄をもたらす存在、過去に不幸であった者を救済し再生させる存在、英雄がその死後に変身し昇天する仮の姿等として表現されています。古代の日本人にとって、白鳥は、地上の人間の不幸を救済するために天上の神が遣わした使者であると受けとめられていたのでしょう。

 ホムツワケのミコトも、ヤマトタケルも、おそらく実在の人物ではないのでしょう。餅が白鳥に成り、死んだ英雄が白鳥に変身し、モノを言えなかった皇子が白鳥を見てモノを言えるようになった話も、たぶん事実ではないのでしょう。おそらく、複数の人物に関する実話を素材として、古代の日本人の「人と自然は、かくあって欲しい」との願望を媒介として創出された物語なのでしょう。

 しかし、古事記と日本書紀が書かれた奈良時代初期、さらにそれ以前の数世紀にわたる古代の人々が、このような価値観と自然観を持って日々生活していたことは、まぎれもない事実です。当時の大和朝廷とその後継者である日本の皇室が、白鳥に対して特別の敬愛の念を抱いてきたことも明らかです。それらの、我々の先祖の自然観は、白鳥を見て喜ぶ今の私たちの心の中にも幾分かは残っているものと思います。

 さて、再び天神川のコハクチョウの問題に戻ります。我々のご先祖が、4000kmの彼方から(現在の知識を持たない近世以前の人にとって、天空の世界から降りて来たとみなしても不思議ではない)はるばると天神川まで飛んできた白鳥を15分間の花火のために無神経に追い散らしている子孫たちを見たら、いったい何と言われるでしょうか?「このバチアタリどもめ!」と嘆かれるのではないでしょうか。

 古代日本人の価値観から見れば、天上の神からの使者である白鳥を喜んで迎えるどころか、白鳥を迫害する行為を毎年繰り返している東郷池には、幸福と繁栄がおとずれることは決してないでしょう。古代から日本に住まわれているあまたの神々も、決してこの種の行為をお許しにはならないでしょう。


(5)鳥取県中部に伝わる天女・羽衣伝説は、本来、白鳥と密接な関係にある

  鳥取県中部では天女と羽衣に関する伝説が現在まで語り伝えられてきており、倉吉市の打吹山と湯梨浜町の羽衣石山の二か所がその舞台とされています。

 天女・羽衣伝説は日本各地、そして世界各地に広範囲に分布していますが、この伝説の起源は、白く輝く美しい白鳥の姿に接した古代人の感動に由来するというのが現在での定説となっています。
 「白鳥処女伝説」、「羽衣伝説

 羽衣石山と東郷池が位置する湯梨浜町では、町の主催で四年前の平成24年11月に「天女シンポジウム」を開催しています。天女・羽衣をキーワードとして観光等による町おこしを図ることが、このシンポジウムの目的なのでしょう。旧東郷町(現在は湯梨浜町)の教育委員会の方も、このシンポジウムを紹介すると共に、東郷池の環境保全の大切さを力説されています。
 「ふるさとオモシ論

 このシンポジウムの中で講師として登場した鳥取県の平井知事は、特別講演の冒頭で、東郷池の白鳥などの水鳥と天女の間にはなにか関係があるのではないかと指摘されています。次いで基調講演「伯耆の国の天女伝説」の講師を担当された鳥取大学名誉教授の野津龍氏は、この疑問に答えて、講演の終盤で世界の白鳥・天女伝説について詳しく触れられています。世界各地では、天女と白鳥は不可分の存在であると見なされていたというのがその解説の要旨です。
 「天女シンポジウム報告書 (PDF)

 このように、倉吉市と並んで天女・羽衣伝説をPRし地域起こしに努めている湯梨浜町が、その一方で、天女伝説の元々の由来であるところの白鳥を何年も花火で脅して追い払い続けているというのは、大いなる自己矛盾なのではないでしょうか?

 さらに、この花火がコハクチョウをネグラから追い出している原因となっていることを知った東郷池への訪問客の皆様は、果たしてこれからも、心の底からこのクリスマス花火を楽しむことが出来るのでしょうか?

 お客様が地方の温泉に求めているのは、日々の疲れを回復させることができる癒しの場のはず。派手な光や騒音の場などは都会でいくらでも経験できるはずです。白鳥がのんびりと安心して冬の水田で餌を食んでいる光景、白鳥から天女を連想した古代の人々に想いを馳せるひと時こそが、白鳥に由来する地名を持つ鳥取の地が誇りを持って来訪客に提供できるものであり、かつ、真の癒しの場となり得るのではないでしょうか?

 旅館組合の皆様には、このクリスマス花火の今後の継続について、あらためて再考をお願いしたいと思います。

/以上
(by 管理人)